通訳案内士の働いている様子をイメージしてみてください。もしかして、外国人のお客さんを相手に、流ちょうな語学を使いエレガントに日本文化を説明している様子が思い浮かびますか?
現実は、それは案内士の仕事のほんのごく一部(しかも大抵の場合、そんなに流ちょうではない)にすぎません。
なぜなら、本当に重要なのは、ツアー前の準備であり、これをどこまできちんとできるかで、ツアーの成否が決まるからです。ツアー後の報告もまた大切です。
ここでは、通訳案内士の実際の仕事の中身を時系列的にご説明します。
読み終えていただければ、余り知られていないツアー前後の業務を含めた、通訳案内士の日々の仕事のイメージを持てるようになるでしょう。
通訳案内士の実務の流れは、準備→案内→報告
通訳案内士の仕事のイメージは、訪日客と流ちょうな外国語で会話をしながら、笑顔でお客さんを案内している、というものかもしれません。
確かにそれも一面ではありますが、どんな仕事にも、外からは見えない地味で目立たない部分があるものです。一流の野球選手が、人知れず素振りやティーバッティングに汗を流しているのと通じる部分があります。
通訳案内士の場合、実際の案内が成功するかどうかは、準備がきちんとできたかどうかによって、ほぼ決まります。ですから、優秀なガイドと言われる人たちは、この事前準備を決して怠りません。
また、案内が終わればそれで仕事が終わり、ということにはなりません。旅行会社から仕事をアサインされたのであれば、報告や精算業務が必ずあります。
つまり、通訳案内士は、仕事のアサインがあったら、(事前)準備→(当日)案内→(事後)報告という流れで仕事をしていく、ということです。
案内だけじゃない!重要なのは、ツアー前の準備作業
受注のための活動は別にして(参考記事:通訳案内士が仕事を得る方法はいろいろ。これからは直接集客がおすすめ)、仕事のアサインや、お客さんからの受注があったら、そこから準備作業がスタートします。
先ず、お客さんの人数とスケジュールを確認します。個人旅行の場合、どのようなグループなのか(ファミリーか、カップルか、友人かなど)、できれば年齢なども把握します。人数が多い場合や高齢のお客さんの場合には、通常よりも移動時間がかかるからです。
次に行先を一つずつ確認します。自分の知らない場所はないか、行先が休館日ではないかを念のため調べます。美術館が臨時休館だったり、庭園がお休みだったりといくのは、よくあることです。このような場合、旅行会社の仕事であれば旅行会社に相談しましょう。変更の決定権は旅行会社にあります。
自分が知らない場所や、案内に自信が無い場所が予定に入っていたら、必ず事前に下見をします。この費用は通常自己負担となりますが、自分の知識や経験が増える機会と、前向きにとらえましょう。下見の際に、実際の移動にかかる時間をチェックしておくと良いです。
更に、移動手段や宿泊施設等の予約が間違いなく完了しているかのチェックがあります。予約や手配は、本来は旅行会社の責任(通訳案内士が行うのは、旅行業法違反です)ですが、確認をガイドがやらねばならないことが多いです。ミスがあった場合、当日一番困るのは案内士ですから、自分のためと思ってやっておきましょう。
この事前準備をどこまでしっかりとやっておくかで、案内当日の安心感が全然違ってきます。ここは手を抜かず、自分で納得がいくまでやりましょう。ツアーの成否はこれで決まると言っても、過言ではありません。
ツアー完了が終わりではない。ツアー後の報告業務
案内当日は、お客さんと接していて楽しい時間でもあり、また目前の仕事に集中していますから、あっという間に終わります。しかし、案内が終われば仕事も終わり、という訳ではありません。通常、事後の仕事があります。
旅行会社の仕事の場合、ツアー終了の報告書を提出しなくてはいけません。旅行会社ごとに報告書の形式があります。ツアー中に起こったこと、特にトラブルがあった場合は必ず報告します。また、利用した施設の評価や全体の印象、改善点などを記入します。
費用関係の精算がある場合には、領収書と精算書を提出します。お金にからむことなので、正確にやらなくてはいけません。領収書を失くすと自腹になったりするので、結構気をつかいます。仮払金を受けていた場合などは、現金の管理に十分気をつけましょう。
こうした報告業務は、案内スキルとは全く別の事務作業ですが、これがいい加減なガイドは旅行会社からの評価が下がります。また仕事を頂きたいと思ったら、きちんと対応しましょう。なるべく早く済ませることがコツです。
報告や精算業務は、ツアー終了後に帰宅して、疲れている時にやらなくてはならないことが多いため、結構な負担になります。私はこれが面倒で旅行会社からの仕事がいやになり、自分のウェブサイトで直接集客をするようになりました。
ちょっと手を抜くと… 案内士の失敗あるある
よくある失敗は、下見を怠ったために、当日道を間違えてしまうことです。慣れてくると、「道を間違えた!」と気づいても表情に出さず、何食わぬ顔で正しい方向に誘導する、ということもありますが、あまり知らない場所だと、そうもいきません。ガイドの不安な様子は、お客さんにすぐ伝わります。
開館日を事前確認していなかったために、当日行ってみたら施設がお休みだった、ということもありがちです。お客さんが小グループであれば、不手際を詫びて、臨機応変に予定を変更すれば良いですが、団体だったりすると対応はなかなか大変です。
予約していた列車のクラスが希望と違っていた、生魚を食べられないお客さんに寿司ランチが手配された、などその場その場で様々なトラブルが発生します。そうした可能性を少しでも減らしていくのが、事前準備の作業なのです。
事前準備の手を抜くと、そもそも不安な気持ちで案内をすることになります。そして、マーフィーの法則が成立して、かなりの確率で、当日にいやな汗をかくことになってしまうのです。やはり基本は事前の下見です。万全の準備を終えて、当日自信を持って案内しましょう。
まとめ
この記事の内容をまとめます。
- 通訳案内士の仕事は、(事前)準備→(当日)案内→(事後)報告という流れ
- 準備には、人数、行先、予約の確認等があります。知らない場所は下見が必須
- 案内終了後の、旅行会社への報告・精算業務も大切
- 準備万端であれば、当日自信を持って案内できる
ということです。
通訳案内士の仕事内容というと、どうしてもお客さんに接する案内当日のことを考えがちですが、実際にはその前後の業務があります。そして準備をきちんとできたかによって、当日の案内が成功するかどうかがほぼ決まってしまいます。
また、事後の業務は、継続して仕事を受注するために非常に重要です。お客さんとは一期一会かもしれませんが、旅行会社は継続的にお付き合いしていく先だからです。なお、自分のウェブサイトで集客をする場合は、ここでお話したような事後の業務はありません。そのかわり、個人事業主や個人企業としての会計業務というものが発生します。
この記事を読んで、通訳案内士の実際の仕事の全体像について、理解を深めて頂けると嬉しいです。
以下の私のnoteで、フリーランス通訳案内士のネットの活用法、自由な働きかたに関する思いなどを、語っています。もしよければ、覗いてみてください。