通訳案内士になったら、ガイディングスキルを向上させたいと思うはずです。どうすれば、必要なスキルアップができるでしょうか?
じつは、ガイディングスキル向上に最も効果的なのは、実際のガイド経験を増やすことです。
なぜなら、お客様が旅行に求めるものは、観光地に関する知識・知見から、地元の人との交流へと変化してきているからです。もはや、単に知識を提供することは、良いガイディングとは言えなくなっています。
ここでは、今後重要なスキルが何なのか、どうやって使えるスキルを身にけるのかについて、ご説明します。
読み終えていただければ、自分なりの効率の良いスキルアップ計画を考えるヒントが得られるでしょう。
通訳案内士に必要なガイディングスキルとは
通訳案内士がガイドをするにあたって、必須のスキルとは何だと思いますか?すぐに思いつくのは、以下のようなものではないでしょうか?
- 外国語の会話能力
- 観光地や日本文化に関する知識
- コミュニケーション能力
ですが、これらはあくまでサービスの提供側、つまりガイド側から考えたスキルです。本当に身に着けるべきスキルとは、お客様がどんなサービスを求めているかという視点で考える必要があります。
そうした視点で見ると、最近の訪日客は「モノ消費からコト消費へ」、つまり所有から体験へ、求めているものが変化しています。もはや、観光地でおみやげを爆買いするという時代ではなくなったということです。
それでは、この変化に合わせて、通訳案内士はどのようなスキルを伸ばしていくべきでしょうか。
「モノからコト」をガイディングに当てはめると、それは「知識・情報からストーリーへ」ではないかと考えています。観光地や日本文化に関する単なる知識や情報は、「モノ」であり、これからの時代、そういうものはネット検索やAIで誰でも入手できるようになります。
ガイドが提供すべきなのは、独自のストーリーを語ることで、それがお客様にとっての貴重な「コト」すなわち気付きや体験になるのではないでしょうか。そうしたストーリーを語るためのスキルこそが、今必要とされています。
ガイディングスキルは、実際にガイドをすることで養われる
では、具体的にどのような方法で、そのようなスキルを身に着けるのでしょうか?それは、机上の勉強とかではなく、一回でも多く実際のガイドをすることだと思います。
様々なガイド団体や各地の公共団体などが、通訳案内士向けの研修を企画していますが、基本的にこうした研修は、知識を増やすためのものです。講演を聞く、というスタイルはどうしても受け身になりがちで、独自のストーリー作りには結びつきにくいです。こうした研修は、自分の知識の再確認や、モチベーション維持に役立てると良いでしょう。
一方、お客さんの琴線に触れるような、独自のガイディングをするには、やはり経験が必要です。1回や2回と場数を踏んでいくことで、身についていくものです。いつも満足のいく案内ができるわけではありません。毎回、「あの時、こう説明すればよかった」とか、「あそこで別の説明をすべきだった」と、思うことばかりです。しかし、こうした経験から、少しずつ自分独自のトークが確立していくのです。
くわえて、実際に案内をしている中で、お客さんの要望をくみとったり、訪日客に共通する興味・関心を見出したりすることができるようになり、それがお客さんに喜ばれる、あなた独自のガイディングへと繋がっていくでしょう。
そうなるためにも、特に初心者のうちは、できるだけ多くのガイド機会を作ることが、スキル向上に役立ちます。多少条件が悪くても、積極的に応募して経験を増やすことが、将来へのプラスとなるでしょう。私も最初は、知り合いに頼んで無料で案内をさせてもらったものですが、多くの気付きがありました。
肌感覚では、一回のガイド経験は、机上の研修の10倍以上の気付きが得られます。正確な案内ができるようにと、研修を受け続けている人を見かけますが、デビューは一日も早いほうが絶対に良いです。実務経験があるガイドであれば、旅行会社からも優先的に仕事がもらえます。
計画的に、効率よくスキルを向上させよう
通訳案内士のスキルアップには、研修受講や自主的な現場視察といった方法もありますが、インタラクティブな即興性を身に着けたり、お客さんの気持ちを察したりといった、対人コミュニケーションスキルを磨くには、やはり実際のガイド経験が重要です。
私は決して知識を軽んじているわけではありません。ただ、ガイドに必要な知識は無限にあり、全てを学ぶことは不可能だと考えています。通訳案内士は国家試験を通じて、必要事項を広く浅く、すでに学習している訳ですから、これから先は、自分のガイディングスタイルに合った内容を深掘りしていくのが良いでしょう。
団体のお客さんとゴールデンルートを巡るスタイルであれば、京都や奈良の観光地情報は必須でしょうし、東京に特化したガイドであれば、都内の知られざるスポットを発掘するのが良いかもしれません。
また、通訳ガイドだからといって、ひたすら観光地や日本文化の知識ばかりを追い求めて研鑽されている方を時々みかけますが、スキルアップとはそれだけではないと思います。ガイディングスキルという言葉を、もう少し広い視野でとらえてみてはいかがでしょうか。
たとえば私は、ガイド中に事故に遭遇したり、何かの理由でお客さんが急に倒れてしまったりした場合、最低限の対応ができる必要を感じて、上級救急救命の技能検定を受けました。消防署が主催する一日講習を受講するだけですから、さほど難しくありません。ただ、これを知っているだけで、ガイド中にも安心感があります。
また、個人ガイドの場合には、高齢のお客さんや体力に不安のあるお客さんの御案内をすることが多いので、そういう方にきちんと応対できる必要があると感じました。時には車いすの操作を依頼される場合もありそうに思い、サービス介助士(ケアフィッター)という資格を取得しています。
このように自分のスタイルを知り、それに必要な知識・情報は何かを考えれば、効率的なスキルアップが可能になります。それとともに、できるだけ多く実際のガイディングを経験して、コミュニケーションスキルを伸ばしていきましょう。それによって、実戦的な語学スキルも同時にレベルアップしていくはずです。
まとめ
この記事の内容をまとめます。
- これからの通訳案内士に必要なのは、独自のストーリーを語るスキル
- そうしたスキルは、実際のガイドを経験することによって、養われる
- 自分のガイドスタイルを知れば、計画的なスキル向上が可能となる
ということです。
ガイドになって最初の時期は、いろいろなルートで仕事を紹介してもらえる機会を増やしておくべきです。慣れてきたら、いろいろな条件を考えて、自分にあった仕事へと絞っていけばよいのです。
実際のガイド業務は、語学スキル、観光地の知識や情報、コミュニケーションスキルの全てにプラスの効果があります。インバウンドの復活で、今ほどスキルアップに適した時期はありません。多くのガイド経験をして、スキルを磨いていきましょう。
以下の私のnoteで、フリーランス通訳案内士のネットの活用法、自由な働きかたに関する思いなどを、語っています。もしよければ、覗いてみてください。